障害者無差別殺傷事件から
5年を迎えるに当たっての声明
2021年7月26日
障害者無差別殺傷事件から5年を迎えるに当たっての声明
全国自立生活センター協議会
代表 平下 耕三
私たちは、どんな重度な障害があっても地域で当たり前に生活し、障害のない人と同じ権利を持ち、地域の中で共にある社会の実現を目指して活動する障害当事者団体です。全国各地に110ヶ所を越える障害当事者団体(自立生活センター)で構成しています。
2016年7月26日未明、神奈川県相模原市にある障害者支援施設「津久井やまゆり園」に元職員で死刑判決を受けた植松聖被告が侵入し、鋭利な刃物で入所者19名を殺害した事件から5年が経過しました。しかし昨年、全16 回に及ぶ公判において被害者個人の名前は「甲」「乙」などと匿名で扱われ、その生きてきた証も表明されておらず、事件が起こったその背景や、そもそも入所施設の在り方などの点において、審議が明らかに不十分で何も解明されていません。判決文の中に植松聖被告の反省のなさやヘイトスピーチには踏み込んでおらず、社会の中にある優生思想とこの事件の関係について問題意識が感じられない判決文だったと言わざるを得ません。Ablism(能力主義)と優生思想の関連に触れることなく、社会に蔓延する優生思想の危険性について全く触れられなかったことは、この事件の波及性を社会に訴える機会を逸した多くの課題を残す裁判となりました。
昨年からの新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は未だに収まらず、多くの人々の命や健康が脅かされ続けています。
健康や経済が阻害されると誰もがあっという間に弱い立場に追いやられ、そして、すでに弱い立場にある人がさらに置き去りにされるという、日本社会の脆弱さをこのパンデミック(世界的大流行)は浮き彫りにしました。
このような社会の脆弱さは、障害のある人たちを入所施設に収容してきた社会の在り方と繋がっていると考えます。
事件当時、障害のある人たちに対するヘイトスピーチが浴びせられました。今回のコロナ禍においても優勢思想にもとづいた障害のある人への治療が拒否されたり、後回しにされてしまうという差別が国内のみならず、世界中で起きていることを私たちは知っています。誰もが命と生活を軽んじられる状況があると考えます。奪われてよい命、軽く扱われてよい命などありません。
私たちは、改めて事件の風化を阻止し、障害のある人が一人の人間として尊重され、名前が匿名で扱われることがないような社会の実現に向け、命の重さや尊さ、不要な命などなく、人間の存在そのものに価値があることを訴え続け、二度と同じ過ちを繰り返させないことを強く訴え続けていきます。