Monthly Archives: 7月 2020

京都ALS女性殺害事件に対する声明

 

2020年7月30日

 

全国自立生活センター協議会
認定NPO法人DPI日本会議
NPO法人 ALS/MNDサポートセンターさくら会
NPO 法人 境を越えて
呼ネット(人工呼吸器ユーザーネットワーク)
バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~
神経筋疾患ネットワーク
(順不同)

 

私たちは、どんなに重度な障害があっても地域で当たり前に生活し、障害のない人と同じ権利を持ち、地域の中で共にある社会の実現を目指して活動する障害当事者団体です。

京都市で昨年11月、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で障害福祉サービスの重度訪問介護を利用し、24時間の介助体制で自立生活を送る林優里さん(当時51歳)を殺害したとして、元厚生労働省技官で医師の大久保愉一容疑者と、医師の山本直樹容疑者が逮捕されました。

捜査関係者によると、林さんは以前から周囲に「安楽死させてほしい」と話しており、2人とは会員制交流サイト(SNS)を介して知り合い、直接の面識はなく、林さんからの依頼を受けて、 昨年11月30日夕方、京都市にある林さんの自宅を訪れ、大量の薬物を投与し、殺害したとみられています。大久保容疑者は「高齢者は見るからにゾンビ」などとネットに仮名で投稿し、高齢者への医療は社会資源の無駄、寝たきり高齢者はどこかに棄てるべきと優生思想的な主張を繰り返し、安楽死法制化にもたびたび言及していたとのことです。
そして、とうとうALSという難病により常時介助を必要とする重度障害のある林さんの死に手を下してしまいましたが、この行為にSNS上で多くの人が容認する意見を寄せていることは、すべての障害のある者にとって恐怖以外の何物でもありません。また報道では、「安楽死」という言葉がクローズアップされていますが、『この事件はネットを介した殺人に他なりません。』

また、今回の事件を受けて、「安楽死法」「尊厳死法」の議論を進めようと言った主張が持ち出されてきていますが、安楽死・尊厳死の合法化などもってのほかです。生きているのが辛いから自ら死を選ぶという意味では、尊厳死も安楽死も自殺と一緒ではないでしょうか。自殺対策大綱で「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指す」と掲げ、国をあげて自殺率を減らそうとしている一方で、尊厳死や安楽死を法制化しようというのは矛盾以外の何者でもありません。自殺者としてカウントしなければ良いという問題ではないと考えます。

被害者の林さんは24時間介護サービスを受けていて、地域生活・自立生活が保障されていても、このような殺人事件が起きてしまいました。そして、SNSを通して多くの人が、安楽死を強く望んだ林さんに同情と賛同を寄せていることの根底には、「生産性のない重度障害者は生きる価値がない」という誤った論調があります。

そもそも人は本来生きていることそれ自体で認められるべきなのです。怖いのはいつも命に対して少数派が除外され、多数派の価値で測られ、それが全てであるかのように扱われることです。
私たちは、被害者の林さんがどのような悲しみを抱えていたか、介護現場が抱えていた課題は何なのかを検証することを求めます。そして、障害を理由に「安楽死させてほしい」と思わなくてもよい社会の構築を訴えます。

私たちは、これからも社会的サポートが必要な人でも一人の人間として尊重され、「生きる権利」が大切にされる社会、「生きる」選択が妨げられることなく、だれもが自分らしく最後まで生きたいと思え、それが当たり前に叶う社会の在り方を強く訴え続けていきます。

 

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「相模原障害者殺傷事件」から4年
コロナ禍の中で迎える7.26声明

4年前の今日、2016年7月26日、神奈川県相模原市にある津久井やまゆり園に入所していた方々が襲われ、19人もの尊い生命が奪われ、26人が重軽症を負わされた「相模原障害者殺傷事件」が起きた。事件から4年を迎える今年3月31日、事件の犯人である植松被告に対して死刑が確定した。私たち障害当事者や家族、支援者らは、事件直後からこの事件の背景や原因は、死刑囚となった植松個人だけの問題ではなく、差別や偏見を払拭できず優生思想を生み出している社会(過去の過ちからの教訓を活かしきれず人権意識の低い福祉・教育等の制度・施策・環境・報道の歪み等)の側にこそあると考え、裁判を通じてそれが究明されることを期待した。判決文では、「犯行動機の中核である被告人の重度障害者に関する考えは、被告人自身の本件施設での勤務経験を基礎」として、津久井やまゆり園における入所者への対応状況が背景にあったことは明言されたものの、裁判では植松個人の責任能力の有無に焦点が当たり、彼の「重度障害者は不幸しか作れない」、「殺した方が社会の役に立つ」という主張の背景や原因を深く掘り下げることはできずに結審した。

他方、本件とは別に津久井やまゆり園での他の職員による利用者への虐待案件、不適切対応等があったことが明らかになった。量刑が確定したとはいえ、史上最悪となった障害者殺傷事件の舞台となった津久井やまゆり園における虐待事例の検証を曖昧にしたままでは、本事件の本質的な解明にはつながらない。判決で明らかになったとはいいがたい植松死刑囚の直接的犯行動機の形成過程が、職場での環境等と関係があったのかなかったのか、今後丁寧に検証される必要があることは明らかである。

裁判の行方はそれなりに世間に注目はされたが、全世界的な新型コロナウィルス感染症のパンデミックの中、死刑確定と共に急速に世間の関心度が低下している。事件を風化させず「共に生きる社会とは何か」を考え続けるために毎年開催してきた追悼集会は、コロナ禍で今年の開催は見送らざるを得なかった。いま、過去の事例から植松死刑囚の早期執行を予測する報道も出始めているが、刑の執行では事件の本当の解決は望めない。世界中のコロナ禍で、人権意識の高いと思われていた国々でも障害や高齢を理由とした命の選別が行われたり、検討されはじめている。いわば生産性の有無や高低を基準としたものであり、「優生思想の復活あるいは容認」が再び広がりかねない。他方、ロックダウンにより自由な行動や判断を他人に制限される不自由を世界中の人々が経験し、そうした自由を剥奪された環境では、虐待事例が増えることも実証された。また障害のある人の感染リスクは、在宅より入所施設の方が高いことも国内外の事例から判明しつつある。第二、第三の植松の誕生を招くことなく、優生思想を根絶し、差別や虐待を防ぐための方策の必要性を、このコロナ禍は指し示している。「新しい日常生活」という、「これまでの日常生活」の中での権利性を奪う時代状況の中で、事件を風化させてはならない。

また、神奈川県は、これまでの「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」を発展改組した「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」(以下、検討部会)を設置し、津久井やまゆり園を含む6つの施設における支援の在り方などの検証を行うとしている。ここでは津久井やまゆり園事件の背景やその一つとされる虐待についてもきちんと検証されなければならない。私たちはこの検討部会の動きに注視していく。

さらに、直前の7月23日に京都でALS患者の安楽死事件が発覚し、2人の医師が逮捕された。7月24日の京都新聞の報道によれば、『医師2人のうち大久保容疑者は「高齢者は見るからにゾンビ」などとネットに仮名で投稿し、高齢者への医療は社会資源の無駄、寝たきり高齢者はどこかに棄てるべきと優生思想的な主張を繰り返し、安楽死法制化にたびたび言及していた。』という。今後より詳しい真相の解明がなされると思うが、植松死刑囚の考え方との共通性に強い危機感を抱く。この事件を契機に「尊厳死の法制化」を議論する必要性に言及する声も出始めているようだが、私たちは、かねてから現状での尊厳死法制化に反対しており、今回の事件においても、ご自身がALSの当事者である舩後参議院議員が発信された『「死ぬ権利」よりも、「生きる権利」を守る社会にしていくことが、何よりも大切です。どんなに障害が重くても、重篤な病でも、自らの人生を生きたいと思える社会をつくること』をはじめ、他の「生きる」選択をされた多くの当事者の方々が発信されている声を重く受け止めるべきと考える。

事件から満4年の今日、私たちは、改めて事件の風化を阻止し、障害によって分け隔てられないインクルーシブ社会の実現を目指して行動していくこと事を誓う。そして、社会のあらゆる人々に、ともに考え行動していくことを強く期待する。

2020年7月26日

認定NPO法人 DPI日本会議
全国自立生活センター協議会(JIL)
「ともに生きる社会」を考える神奈川集会・実行委員会
(順不同)

 

津久井やまゆり園2020.7.26声明(PDF)

津久井やまゆり園2020.7.26声明(word)

津久井やまゆり園2020.7.26声明(テキスト)

医療法人財団兵庫錦秀会 神出病院(兵庫県神戸市)で発生した虐待及び暴行等事件に対しての要望

2020年7月3日

神戸市市長
久元喜造 様

全国自立生活センター協議会
東京都八王子市明神町4丁目4番11号
シルクヒルズ大塚1F
代表 平下耕三

医療法人財団兵庫錦秀会 神出病院(兵庫県神戸市)で発生した
虐待及び暴行等事件に対しての要望

私たちは、どんな重度な障害があっても地域で当たり前に生活し、障害のない人と同じ権利を持ち、地域の中で共にある社会の実現を目指して活動する障害当事者団体である。全国120ケ所を越える障害当事者団体(自立生活センター)で構成している。

医療法人財団兵庫錦秀会 神出病院(兵庫県神戸市)において入院中の患者さんに対して虐待・暴行・強制わいせつなどを行ったとして、看護師ら6人が2020年3月4日に逮捕された。
新聞報道などによると、入院患者に対し、裸にしてトイレに座らせ水をかける、患者を寝かせベッドを逆さにして監禁する、男性患者同士強制的にキスをさせる、性行為を強要するなど、人権を無視した非人道的で卑劣極まりない行為を看護師らが夜の巡回の時間に防犯カメラのない部屋やトイレで繰り返し行い、その様子を動画に撮影しSNSで共有していたということが明らかになっている。

上記事件は宇都宮事件や箕面ヶ丘病院事件と同列あるいはそれ以上に精神障害者の人権を侵害した事件でありこのような事件の発生はもちろんのこと、神出病院事件で発生した事件がきっかけで神出病院を始め日本全国の精神科病院で入院中の精神障害者の行動規制や入院処遇が今以上に劣悪にならないよう再発防止策を講じる必要がある。

長期に及ぶ精神障害者に対する隔離収容施策・社会的入院(長期入院)が今回の事件の一因と我々は考えており、精神科病院の社会的入院の早期解消が急務である。精神障害者も病院でなく地域で健常者と同じように当たり前に暮らせる社会であればこのような事件は起こらなかったと推測される。

我々は深い悲しみと怒りを感じており、このような精神障害者の人権がひどく侵されたことに対し断固抗議し、下記12項目の要望をする。以下に対して7月31日までに文書で回答を求める。

【責任の所在について】
1.事件を容疑者個人の問題として裁判所の判決だけに委ねるのではなく、神出病院の人権意識の欠落、神戸市の監査が機能していなかったことに原因があることを神戸市が把握し監査強化を行う等、再発防止策を講じること。

【被害調査について】
2.神出病院に入院している全ての入院患者に対して第三者機関へ委託し(弁護士・人 権保護団体等を構成員として加えること)虐待・暴行の被害調査を行うこと。

【権利擁護・転院・退院促進について】
3.神出病院で入院患者が退院や転院の意思を言葉や文章だけでなく何らかの形で表明した場合は、神戸市は必要な資源を速やかに提供し、入院患者が希望する生活を送れるよう援助すること。同時に精神障害者の地域生活・自立生活に向けた支援体制を整え、いつでも地域で安心した生活が送れるように配慮すること。

【神出病院への指導】
4.神出病院が入院している患者に対して事件を分かりやすく丁寧に説明・謝罪を行えるよう神戸市が指導を行うこと。

5.「虐待・犯罪行為防止のため」という趣旨で、監視カメラを増やすことや管理体制 を強めることは患者のプライバシー・人権を著しく侵害する。神出病院ではすでに監視カメラの新規増設を公表している。即刻に撤去を指導し、監視カメラに変わり医師、医師以外の専門職の増員などによる患者の安全と人権を守るよう神戸市として指導すること。

【情報の公開】
6.神戸市が調査した調査結果や対応を隠すことなくマスコミなどに公表すること。

7.今回の事件は継続的に犯行を行っていたと容疑者が供述しているが、神戸市が昨年度行った神出病院への通称630調査結果を公開すること。また調査時に患者や職員へ虐待についての聞き取り調査などを行ったか具体的に回答すること。

【人権研修の実施】
8.虐待事件は患者側の問題ではなく、神戸市の監査不備、病院の運営体質、人権意識の欠落が一因であり、病院運営者・医師・医師以外の専門職などに対し人権研修を行うこと。職員が人権意識を保つためには障害当事者からの人権研修が最も大切である。従って、研修実施の際には障害者団体及び精神障害当事者を入れること。

9.事件を未然に防ぐためには、精神科病院の透明性が重要である。今後、神出病院を含む神市内の全ての精神科病院に対し、行政の調査とは別に人権活動をしている障害者団体に病院訪問及び調査を委託し、精神科病院の閉鎖性を解消していくこと。

10. 2、8、9の項目の人権活動している当事者団体・個人についてはその実績を考慮しつつ、公平性を保つために、神戸市とは独立した団体からの公募で決めること。

【精神医療審査会について】
11. 精神科病院での虐待事件が繰り返し起きる要因として、退院請求・処遇改善請求が上がりにくい、形骸化しているなどの問題がある。神戸市はこの問題について 解決するよう取り組み、例えば、退院請求・処遇改善請求を患者ができるように、わかりやすくいリーフレットをつくり患者に配布するとともに、退院請求についてわかりやすい場所に掲示するなど実践的な取り組みをすること。

12.精神医療審査会の審査で退院請求や処遇改善請求が上がった場合には、請求を行った本人に会いに行き精査すること。また、退院請求・処遇改善請求を行えるように病院外部のアドボケーター(弁護士・当事者団体等)が病院訪問を行えるよう環境整備を行うこと。

以 上

<連絡先>
全国自立生活センター協議会
〒192-0046東京都八王子市明神町4-11-11-1F
TEL:042-660-7747 FAX:042-660-7746

 

医療法人財団兵庫錦秀会 神出病院(兵庫県神戸市)で発生した虐待及び暴行等事件について、適切な対応を求める要望
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