パキスタンIL運動促進のための
アクティブ車椅子(AW)プロジェクト報告書
2006年11月16日
主催:SAKURAGIS(パキスタン)
www.sakuragis.com
協力:マイルストン/ライフ自立生活センター(パキスタン)
後援:全国自立生活センター協議会/パキスタン地震緊急救援基金
報告者: SAKURAGIS技術開発部主任
ムハンマド・ハビブ・ウル・ラーマン
0.プロジェクト概要
サクラGIS社は、全国自立生活センター協議会(JIL)のサポートを受け、障害者が自由に移動できるよう、パキスタンにおける自立生活(IL)運動促進を目的としたアクティブ車椅子(以下、AW:active
wheelchair)を作製しています。地震の被災者へ車椅子を配布するだけにとどまらず、パキスタンのIL運動の担い手へとつなぐことを活動の基本としています。このプロジェクトを通して、地震から1年経過した今、車椅子による移動の面とピアカウンセリングによる精神的な面からの被災者支援が進むことを確信しています。
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本プロジェクトの試行事業は、JILとライフILセンターの協力により成功に終わりました(2006年7月終了 報告はこちら)。次の段階とし、パキスタン国内各地で車椅子を必要としている100名へ配布計画を立てました。
第1段階として、パキスタン地震緊急救援基金の100万円(2006年8月31日送金分)を資金に今回のプロジェクトを実施しました。
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配布対象者は、@本人の希望、AライフILセンターとマイルストンの推薦により決定し、試行事業の配布対象者から協力も得て、新たな対象者リストを作成しました。
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本報告は、配布対象者51人のプロフィールと、車椅子利用者であり未来のリーダーである彼らの考え方やIL運動への参加状況をまとめたものです。
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1.プロジェクト報告
試行事業終了後、サクラGIS社では、パキスタン各地でIL運動の理念を広めるリーダー発掘・育成を続けるため、JIL、ライフILセンター、マイルストン、そして試行事業の配布対象者の協力を得て次の車椅子生産計画を立てました。各地域で地元リーダーを発掘・育成を目的とし、IL運動への参加と地元活動グループ形成の見込みがある人へ車椅子を提供します。
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この目的のもと今回のプロジェクトでは、対象者のグループを2つ設定しました。障害児リハビリセンターの子どものグループと地域で生活している重度障害者たちのグループです。
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まず、障害児リハビリセンターで希望やニーズ調査を行いました。基本情報は写真付で記録し、体に合った車椅子をつくるために体のサイズを測りました。この計画は2006年1月から準備を始め、現在に至ります。しかし、親たちは車椅子に対して否定的な意識があり、できれば子どもたちに車椅子をつかわないでいてほしいと思っています。子どもが車椅子をつかうことに興味がなかったり希望しない親がいて、計画は難航しています。
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2つ目の対象者グループとして、重度の障害者を選び、車椅子を配布します。重度障害者が車椅子を利用することで、家族や一般の人たちの障害者に対する考え方を変えることがねらいです。地元で移動したり社会参加ができるようになれば、自立生活をやり直す自信をもつでしょう。こういった活動は、障害者に関する意識を変えるのに最適です。
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2.達成目標
プロジェクトの達成目標は、次の通りです。
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・パキスタンIL運動の促進 |
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・障害者の自立生活をサポートする車椅子の作製 |
|
・草の根レベルから障害者に対する考え方を変える |
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・パキスタン各都市における新たなIL運動の障害者リーダーの発掘・育成 |
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・障害の問題を障害者とその家族に気づいてもらう |
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・障害者の積極的関与によるAW生産の研修と技術開発 |
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・情報提供と技術開発のためのセミナー、研修プログラム、ワークショップの開催 |
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3.どうして対象者として選んだか
私たちは、AWを普及させることで、パキスタンにIL運動を広めることを目的としています。この目的のもと、ニーズにもとづいた調査を行い、未来のIL運動のリーダーとしてふさわしい、障害者についての考え方や運動への参加について等を明らかにしました。
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4.対象者プロフィール
(1)年齢
対象者の50%以上が15- 30歳の若年層に含まれます。 |
年齢(才) |
男性 |
女性 |
計 |
10-14
|
6
|
5
|
11
|
15-18
|
9
|
1
|
10
|
19-24
|
5
|
1
|
6
|
25-30
|
11
|
0
|
11
|
31-40
|
8
|
1
|
9
|
40以上
|
3
|
1
|
4
|
計
|
42
|
9
|
51
|
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(2)出身地
パキスタンの様々な都市、地域から選びました。 |
地域 / 市 |
男性 |
女性 |
計 |
ガジュランワラ
|
2
|
-
|
2
|
イスラマバード/ラワルピンディ
|
10
|
6
|
16
|
カラチ
|
5
|
-
|
5
|
ラルカナ
|
1
|
-
|
1
|
カネワル/ ムルターン
|
1
|
-
|
1
|
ラホール
|
8
|
-
|
8
|
北西辺境州(NWFP)
|
15
|
3
|
18
|
計
|
42
|
9
|
51
|
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(3)教育状況
65%の対象者が異なるレベルで教育を受けています。 |
教育水準
|
男性
|
女性
|
計
|
未就学
|
14
|
4
|
18
|
初等学校 (5-10 才)
|
8
|
1
|
9
|
中等学校 (11-13 才)
|
11
|
3
|
14
|
準高等学校 (14-15 才)
|
4
|
-
|
4
|
高等学校 (16-17 才)
|
1
|
-
|
1
|
カレッジ (18-19 才)
|
2
|
1
|
3
|
大学 (20-21 才)
|
2
|
-
|
2
|
計
|
42
|
9
|
51
|
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(4)家族の収入
70%が貧困層(月収1,000-5,000Rs:約2,000-10,000円)に含まれます。 |
収入水準(Rs)
|
男性
|
女性
|
計
|
〜 2,000
|
16
|
3
|
19
|
〜 3,000
|
9
|
1
|
10
|
〜 4,000
|
2
|
1
|
3
|
〜 5,000
|
5
|
2
|
7
|
〜 10,000
|
6
|
1
|
7
|
〜 20,000
|
4
|
-
|
4
|
20,000〜
|
-
|
1
|
1
|
計
|
42
|
9
|
51
|
|
(5)家族の規模
家族の規模は3-14人です。家族の人数が多いことは、経済的に障害者の生活費用を捻出することが難しいひとつの理由です。しかし、同時に、約400人へ障害者のニーズにもとづく車椅子の情報が行き渡る機会でもあります。 |
家族規模
|
対象者の人数
|
家族の合計数
|
3
|
4
|
12
|
4
|
4
|
16
|
5
|
4
|
20
|
6
|
4
|
24
|
7
|
9
|
63
|
8
|
6
|
48
|
9
|
7
|
63
|
10
|
7
|
70
|
11
|
3
|
33
|
12
|
2
|
24
|
14
|
1
|
14
|
計
|
51
|
387
|
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(6)家族内の障害者の人数
家族内の障害者の人数については、次のとおりです。 |
家族内の障害者の人数
|
男性障害者
|
女性障害者
|
計
|
1
|
37
|
8
|
45
|
2
|
1
|
1
|
2
|
3
|
3
|
-
|
3
|
6
|
1
|
-
|
1
|
計
|
41
|
9
|
51
|
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5.対象者の障害についての考え方
主に、@障害についての考え方を知ること、そして、本人たちに障害の問題に気づかせること、A自立生活運動へ参加してもらうことを目的として質問をしました。 |
Q1.どうして車椅子が必要ですか?
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車椅子の利用についてさまざまな理由をあげました。自宅や学校、職場やコミュニテイへ参加するための移動手段として、つまり自立生活のためであったり、教育や娯楽、社会参加、仕事や移動へのニーズを満たすためであったりします。よくみられた回答は次の通りです。
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わたしには障害があり、自分自身では動くことができません。もし車椅子があれば、動けるようになります。家や大学、授業など、毎日の移動に必要です。もっと教育を受けたいです。今はきょうだいがわたしを運んでいますが、自分で行きたい店へ行くことができます。これは課題です。自分のことは自分でやって、生計を立てられるように社会へ参加したいです。みなと同じようなあたりまえの生活をしたいのです。
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Q2.車椅子があれば、どのように生活が変わりますか? |
対象者は、車椅子があれば、人生を楽しみ社会生活へ積極的に参加できると確信しています。主な答えは次の通りです。
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|
・自分で人生を快適に変えることができるでしょう。
・移動する自由と世界への感覚を取り戻すでしょう。
・ある場所から別の場所へ自由に移動できるようなります。
・自立を通して人生へ変化をもたらします。
・人生のレースへ参加することができます。
・快適に移動することができ、人生の転機となり、自分以外の人々をサポートできるでしょう。
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Q3.あなたが権利意識をもつのに、車椅子はどのように役立ちましたか?
また、あなたは何人自分以外の障害者を知っていますか? |
車椅子を手に入れることが、対象者自身や仲間の障害者の権利意識を芽生えさせる鍵であることがわかりました。車椅子を基本的なニーズのひとつとしてとらえています。
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わたしは大きくなっても、親の手をかりて外へ連れて行ってもらっていました。ある日、テレビで障害者が車椅子をつかっているのを観て、自分も車椅子を手に入れなくてはと思いました。
車椅子は天の恵みであり、自分の権利のために戦うこともできます。世の中の出来事に関心を向け、役人へ連絡をとり自分の権利を行使します。自分自身が権利を理解し、同時に、社会へ向けて世の中にある様々な偏見や差別を指摘します。
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将来の夢や希望を車椅子と関連づけて話す人もいました。
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車椅子があれば医療機関へいくことができます。勉学を終えたあと、公務員として働きたいです。効率的に働くことができます。他の障害者のためにソーシャルワーカーとして福祉の分野で働きたいです。車椅子があれば教育を受けることができ、将来仕事ができる高等教育も受けられるかもしれません。もっと自立できるでしょう。たくさん友達がいるので、みんなと簡単に会うことができます。 |
また、車椅子が手に入れば、仲間の障害者の権利も守ることができると考えています。
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わたしはたくさんの障害者を知っています。障害者の権利のためにたたかい、他の障害者も仲間になるよう呼びかけます。みなを助けることができるでしょう。短期間で自分の思いをみなに伝えることができます。わたしの村に4人の障害者がいます。わたしが家の外にでて、いかに車椅子が人生を積極的に変えるかを教えます。私にはたくさんの障害がある友だちがいます。たくさん障害者を知っていますが、会うことができません。もし車椅子があれば、みんなと会えるし、自分の権利もわかるでしょう。 |
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Q4.車椅子が手に入ったら、これから何をしたいですか? |
みんなの計画は、次のようにわけられます。
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a.普段の生活 |
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・ふつうの人生を送ることができる。
・自立生活する。
・仕事を素早くこなせるようになる。
・楽に仕事へ行き、もっと稼ぐことができる。
・もっと勉強をする。そして結婚したい。
・車椅子を手に入れて、仕事をして家族をサポートしたい。
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b.夢、希望、目標 |
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・読めるだけ本を読みたい
・車椅子スポーツに参加する
・布屋さんになる
・コンピューターを勉強したい
・記者になる
・医者になりたい
・服の仕立て方を勉強したい
・仕事をすることと学校へ行って福祉サービスの勉強すること。自立生活を楽しみたい。 |
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c.リーダーシップと社会サービス |
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・ほかの障害者を助けることができる。
・行きたいところへ自由にいくことができる。
・自分にできるかぎり障害者のために働くことができる。
・他の障害者にも車椅子を手に入れられるよう頑張りたい。
・障害者をとりまく問題を理解したい。
・家に閉じこめられている障害者を助けたい。
・障害者が差別を受けない社会をつくりたい。 |
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Q5.仲間の障害者をどうやってサポートしますか? |
未来のリーダーたちは、さまざまな方法で仲間の障害者をサポートする意欲をみせました。出てきたアイディアや計画は次の通りです。
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・仲間の障害者を元気づけ、問題を共有する
・仲間の障害者を研修し、車椅子配布の対象者として推薦する
・障害者の自宅訪問をしてエンパワメントの視点を気づいてもらう
・障害者問題に焦点をあてた記事をかく
・仕事や医療を提供する
・異なる障害の仲間をサポートする
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6.まとめ
対象者の基本的なアセスメントと障害についての考え方を尋ねた結果、彼らは自分たちのニーズに対して高い意識があることがわかります。それぞれの社会経済的状況にかかわらず、車椅子は生活を変える基本的なものだと考えています。性別を問わず、自立生活運動や障害者への偏見を変えるための活動で積極的な役割を果たしたいと強く思っています。他の障害者が自立生活できるよう働きかけたがっています。また、車椅子によってどのように人生が変わるかを皆に知らせたがっています。さらに移動の自由を権利として得ることで、差別されない社会をつくっていきたいと望んでいます |
最後になりましたが、IL運動活性化に向けたこのプロジェクトを実行する機会を与えて下さった皆様、ありがとうございます。今後とも必ず思いに応えられるような成果をご報告いたします。
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心から感謝の念をこめて,
M.ハビブ ウル ラーマン |
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