2021年4月16日 津久井やまゆり園でのパラリンピック採火に対する抗議文 全国自立生活センター協議会         代表  平下 耕三  私たちは、どんな重度な障害があっても地域で当たり前に生活し、障害のない人と同じ権利を持ち、地域の中で共にある社会の実現を目指して活動する障害当事者団体です。全国110 ケ所を越える障害当事者団体(自立生活センター)で構成しています。  3月21日の報道によると、神奈川県、相模原市、かながわ共同会は、2020東京パラリンピックの採火を「津久井やまゆり園」で行うことを固めたとあり、一部では「共生社会の実現に向けた強い決意を国内外に示すため、園で採火することにした」報道されています。  しかし、「津久井やまゆり園」は、150名以上もの障害のある者を収容してきた大規模施設です。2016年7月26日未明、元職員によって19名もの知的障害のある者が殺害され、24名の知的障害のある者と2名の職員が負傷しました。戦後、最悪の大量殺人事件として世界中の障害のある者を恐怖に陥れ、優生思想が社会に蔓延していることを顕著にし、賛同する声が相次ぐなど、むしろ助長させた場所であると言えます。さらに、この事件により亡くなった19名は、家族の意向等で名前を公表されていません。事件から5年経ったいまでも亡くなられた人たちの悲痛な叫びは未だ触れられておらず、真相究明には全く向かってすらいません。また、事件後も「津久井やまゆり園」では、障害者虐待が繰り返されており、とても人が生活できる場とは思えない環境で、いまもなお、尊厳を奪われて人権を踏みにじられています。  すでにご存じの通り「障害者の権利に関する条約」第19条には、「障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。」と明記されています。例え、いくら地域に根ざした施設であっても、障害のある者を集団で収容している時点で条約に反しており、そもそも、自ら望んで施設に収容されたのではないことは明らかです。つまり、施設は「共生社会」とは程遠いところに位置しています。  今回、「多様性」というところであれだけ問題になったにも関わらず、パラリンピックの採火という神聖な取り組みの場所として、残虐な事件が起き、いまも虐待を受けている人たちがいる「津久井やまゆり園」で実施することについて全く理解することができず、強い憤りを覚えます。あの残虐な事件と今回の採火は全く別の問題であるにも関わらず、それを混同して共生社会実現への決意などという後付けの考えは、筋違いも甚だしく、よいイメージで上書きし、事件を風化させようとしているように思えてなりません。共生社会実現の意思をこのような全く筋違いの方法で国内外に発信することは、国内の障害のある者に対する侮辱であり、国際的にも人権侵害のある国として世界中に宣伝するようなもので、ハッキリ言って世界の恥です。  真の意味での「共生社会」を正しく理解し、優生思想に立ち向かう行動を起こしてください。そのためにも、パラリンピック採火の地として「津久井やまゆり園」を設定することは、白紙にしてください。