2022年12月21日 北海道のグループホームで知的障害のカップルに 赤ちゃんができないようにした問題からかんがえた、 障害者の性や、子どもを産み育てる権利について、言いたいこと (やさしいことば版:北海道江差町の社会福祉法人あすなろ福祉会における「不妊処置」問題から見る、障害者の性と生殖に関する健康と権利についての声明) 全国自立生活センター協議会 代表 平下 耕三  わたしたちは、障害があってもあたりまえに地域でくらしていけるように活動している団体です。  だれもが差別されないように、みんなで生きる社会をめざしています。  障害者権利条約で言われている大切なことを全部、社会でできるようにしたいと思っています。  2022年12月18日に、北海道の「あすなろ福祉会」がやっているグループホームで、知的障害があるカップルがいっしょに暮らしたいと思ったとき、赤ちゃんができない体にするように言われていた、ニュースがありました。  これは20年よりもっと前からの決まりになっていました。  これまで8組(16人)が、赤ちゃんができなくさせられていました。  このニュースを聞いて、日本政府の人(松野博一官房長官)は、 「結婚をしたいと思っている本人が、のぞんでいないのに、赤ちゃんができなくなるようにする条件は、だめなことです」と言いました。  国も、北海道庁に、本当のことかどうか聞いて調べているので、だんだんとくわしいことがわかってくるでしょう。  日本では、障害者の権利をまもる法律(日本の憲法や障害者権利条約)にあわせて、障害者のためのいろいろな法律(障害者総合支援法など)をもっとちゃんと作ろうとしています。 いま、問題になっているグループホームは、障害者の法律(障害者総合支援法)に合わせてつくられた福祉サービスのひとつです。  ひとりひとりが大切にされるための福祉サービスなのに、障害者の権利をふみにじる事件が起きたので、わたしたちは、とてもおこっています。  また、わたしたちにとって、あたりまえの権利が、もっとうばわれるんじゃないかと思うと、とてもこわい気持ちになります。  むかし、旧優生保護法という法律で、赤ちゃんができない体にさせられた人が、いま全国でさいばんを起こしています。  いまは、その法律がないのに、むかしのように、赤ちゃんができなくなるようにされているなんて、とてもがっかりします。    わたしたちには、伝えたいことが4つあります。 1. だれもが、子どもをもつ・もたない、どちらの権利もあります。   わたしたちは、それをどうしたいかをえらぶ権利もあります。   私たちには、子どもを産んでもいいし、産まなくてもいい。それを決める権利があります。   性についての権利は、世界中の人が、あたりまえの人権だと思っています。   でも、まだ日本では、あたりまえになっていません。   日本の憲法でも、障害があるから、という理由で差別してはいけない、と決められています。     障害者権利条約(23条)では、次のように言っています。  ・家族を作ろうと決め、結婚して家族を作ることは、あたりまえの権利です。  ・何人の子どもをもってもいいし、何年おきに子どもを産むか、自分で決めることができます。  だから、自分の性や家族計画について、年に合ったように、ちゃんと教えてもらうことも権利です。  ・障害者でも、ほかの人たちと同じように、子どもを産む能力をもったままでいることができます。  パートナーをもつ・もたない、子どもをもつ・もたない、どちらの権利もあります。  そして、わたしたちには、それを選ぶ権利もあります。なんども言いたいことです。 2. わたしたちの性について、本当のことをかくさないで、なんでも教えてほしいです。 自分の気持ちを、みんなにわかってもらえるように、サポートが必要な人もいます。  日本では、性についての教育を、はずかしいこと、だめなことだと考えられていて、学校でわたしたちはちゃんと教えられてきませんでした。  ゆっくりとていねいに教えてほしい大切なことなのに、十分に教えてもらっていません。  性教育を十分受けていないのに、「ふにんしょち」という言葉が、一生赤ちゃんができなくなってしまうことだと障害者が知っていたといえるでしょうか。自分の権利をしっかりわかって、子どもをもつ、もたないことを選べたでしょうか。  自分自身が、権利の主人公です。  なんでもかくさずに、わかるまで性について知ること・教えてもらうことが大切です。  ひとりでは、決めることや決めたことを伝えることがむずかしい人には、だれかのサポートが必要です。  問題になっているグループホームの人は、赤ちゃんができなくなることを説明したし、あなたは「わかりました。そうします」と言った、と説明しています。  でも、権利について、性について、気持ちをたしかめるサポートもないのに、グループホームの人がそんなことを言っても、決してみとめられません。 3. 助けてほしいときに、助けてもらえる社会になってほしいです。  子育ては、どんな人でも、親だけではなく、いろいろな人たちからサポートを受けてするものです。子育てだけじゃなく、どんなことでもそうです。  いろいろな制度やサービスを使いながら、子どもを産み育てている人たちも、日本中にいます。助けてくれる人もたくさんいます。  本当にできている例を参考にしながら、日本はまだできていないところを、ちゃんと準備してください。  障害があってもなくても、みんな、必要なサポートを受けることができれば、自分らしく生きられる社会となります。 4. だれにでも、心のなかに、差別しそうな気持ち(優生思想)があると知って、   みんなで、自分の心のなかの差別しそうな気持ちと、たたかっていきましょう。  障害者は、「性について理解できないだろう」「責任をもって子どもを育てられないだろう」「障害が遺伝したら子どもがかわいそう」と思われることが、よくあります。  わたしも、あなたも、どんな人であっても、気づかないうちに、心の中に人を差別する気持ち(優生思想)があるのだと、知っておくことが大切です。  「障害者は、いないほうがいい」「障害者は、いろいろなことができない」という考え方は、ひとつのものさしだけで人間たちを分けたり、差別をしたりすることとおなじです。  できる・できない、という一つの考えだけで、人間をいい・わるいと分けることはできません。  いろいろな人たちが、みんないっしょに生きる社会は、社会に足りないものや社会を変えるためのアイデアを出し合えるから、選べるものごとが増えます。それは、だれも仲間はずれにしない強い社会になるから、とても大切なことなのです。    差別や障害とは何か、わたしたちひとりひとりが考えていくことが大切です。  そうして、心のなかにある優生思想とたたかうことが必要です。  わたしたちは、障害者が集まる団体です。  優生思想とたたかっているすべての人たちの声を大切にし、みんなの権利が大切にされる社会になるように、わたしたちは声をあげ、つながっていきます。 (ここまで)