2023年1月27日 インクルーシブ社会はインクルーシブ教育から ~JILインクルーシブ教育プロジェクトの考える総括所見の意味~ JILインクルーシブ教育プロジェクト 一同 私たちは、どんな重度な障害があっても地域で当たり前に生活し、 障害者権利条約の完全実施に向けて障害のある人とない人が分け隔てられることなく、 誰もが差別されず、共に生きられる社会(インクルーシブな社会)を目指して活動する障害当事者団体です。 全国110か所を超える障害当事者団体(自立生活センター)で構成しています。 インクルーシブな社会を実現するために、教育分野からでは、 障害者権利条約第24条「教育」および一般的意見4号(インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見)に書かれている インクルーシブ教育の実現を目指し全国で活動しています。 2022年8月、国連(スイス・ジュネーブ)で障害者権利条約に関する日本の建設的対話が開かれ、 9月9日に権利委員会から日本政府へ総括所見が出されました。 教育の分野からは、「障害児を分離した特別支援教育をやめる」よう強い勧告が出て、報道にも流れました。 そういった報道を受け、「障害児を通常の学級で学ばせるのはかわいそう」「一緒に学ぶのは迷惑だ」などの批判や、 現在特別支援学校に通う障害当事者や、保護者の方からは「特別支援教育を受けられなくなるのではないか」などの 不安の声が相次ぎました。 日本は、2014年に障害者権利条約を批准し、障害児者に関する様々な法制度が整備され、 インクルーシブ教育の実現を目指しています。 しかし実際の教育現場では、支援を必要としている子どもの場合は、特別支援学校や特別支援学級などの別の場で、 その子どもにあった教育を受ける、というような教育システムになっています。 これはいわゆる日本型インクルーシブ教育システムと言われています。 「通常の学級では、一人ひとりにあわせた必要なサポートを受けづらいため、 特別支援学級や特別支援学校がなくなっては困る」という考え方から、 上記のような批判や不安の声が溢れたのではないかと考えられます。 しかし今回の障害者権利条約の勧告は、特別支援教育を廃止することを求めているわけではなく、 障害の有無で学ぶ場を分けることに対して危惧しているのです。 そこで本会が目指すインクルーシブ教育について、改めて社会に伝えたいと思います。 1.インクルーシブ教育は、通常の学級の在り方を変えていくプロセスである 現在の日本の教育は、多様な子どもたちがいることが前提となっているでしょうか? 「多様な子ども」というのは、障害のある子どもだけではなく、 性的マイノリティや貧困家庭にいる子ども、外国にルーツのある子どもなど様々な背景をもつ子どもをさします。 インクルーシブ教育は、「多様な子どもたちがいることを前提とし、 その多様な子どもたち(排除されやすい子どもたちを含む)の教育を受ける権利を地域の学校で保障するために、 教育システムそのものを改革していくプロセスである」※1と言われています。 つまり、通常の学級で、一人ひとりにあった支援が受けられるように変えていくことが求められているのです。 通常の学級の在り方を変えていく方法としてまず考えられることは、1クラスあたりの人数を減らすことです。 それにより教員の仕事の分散化や複数担任制などが可能になるなど、 教員の負担軽減につながり教員の離職率を下げることができるのではないでしょうか。  インクルーシブ教育を進めていくことで、学校で学ぶ子どもも、学校で働く教職員も、 すべての人にとって過ごしやすい学校になると考えます。   2.インクルーシブ教育はインクルーシブ社会につながる 今の日本は教育課程から分離されているため、多様な人たちがともに生活しているということを 気づかないまま大人になっていると思われます。 そのため、いつの間にか「多数派」と呼ばれる人たちに合わせた社会になってしまっているのです。 「当たり前」からはみ出てしまった人(少数派)に対する差別が生まれてしまう構造ができあがっているのではないでしょうか。 障害や病気がないいわゆる健常者と呼ばれている人の中には、 「多数派」になろうと無理に努力をして生きづらさを感じている人たちもいるでしょう。 サポートが必要な人は障害者だけではありません。 学校教育を受けるときから、一人ひとりが必要なサポートを受けながら学ぶことのできる環境が当たり前になっていれば、 誰にでも必ずある「ちがい」が認められ、ちがいがマイナスにならない社会がつくられていくのではないでしょうか。 インクルーシブ教育は、誰も仲間外れにされないインクルーシブ社会につながっていくと私たちは考えます。 3.インクルーシブ教育について一緒に考え続けること 上記2点から、インクルーシブ教育は、障害者だけにかかわらずすべての人にとって、 生きやすくなる社会につながると考えられます。 だからこそ、私たちは、インクルーシブ教育の大切さや必要性について一緒に声を上げてくれる仲間を増やしていきたいのです。 今、分離された社会で生きている人や現在の社会で生きづらさを感じている人たちとともに 社会を変えるためにつながって考え続けていきたいです。 注釈について ※1野口晃菜・喜多一馬編著(2022). 『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育 誰のことばにも同じだけ価値がある』.学事出版 より引用。 (以上)